「ゴックン先生」の原点


前回:当時のリハビリ医療について思うこと


今の私を形作った、ある患者さんとの出会い

リハビリテーション科に進み、リハ医(医師になってから5年目)をめざしていた時、私は患者Aさん(仮称・60歳)に遭遇します。少し話が長くなりますが、ご容赦ください。

Aさんは脳梗塞の病気のあとに、嚥下障害となり、誤嚥(つまり、飲み込みが悪いので食べたものが気管から肺に入ってしまい肺炎をおこしてしまう症状)があり、口から食べることが禁止され、栄養は鼻からのチューブで注入されていました。唾液も飲めなかったので、いつも唾液を「ぺっぺ」とティシュに吐き出していました。

脳梗塞でしたが、手足の動きは比較的良好で日常生活動作は自分でできていました。この嚥下障害の原因は検査をすると、食べ物が食道に行かないのでのどに残ってしまい、それが誤嚥をおこしているという状況でした。

Aさんの治療は当時では当たり前のものでした。「誤嚥がある患者さんは口から食べることが禁止」され、鼻からのチューブで栄養を摂るという状況で、正直これ以上の治療はよく知られていませんでした。

私は、体力をつけるリハビリをしたのちに「十分元気になったので退院しましょう」と伝えたところ、Aさんが猛烈に怒って私に訴えてきました。

「俺は 1人暮らしで、食事を作って食べてきた。脳梗塞だが手足は運よく大丈夫だ。しかし鼻からのチューブで飯が食えないと言うのでは、病気は治っていない。お前は医者だから、お前が治せ!」

私は何とも、途方にくれてしまいました。

当時は大学病院で働いていたので、直属のリハ医と言われる上級医や教授に相談したが、結局、皆「治療法はわからない、誤嚥だから仕方ないのでは・・」と言われてしまいます。周りのリハビリスタッフも知っている人はいないし、Aさんは治せと言うし、途方にくれながら何とか自分で解決していくしか方法はない、頼れる人は自分しかいない状況でした。

そこで私は学生時代に習った「嚥下障害」をキーワードにして、本当に治療法がないのかどうかを図書館で調べました。今のようにパソコンでキーワードを入れれば、文献が山ほどでてくる時代ではない、1988年の頃の話です。関連あるかなと思った文献を読んでは違う、読んでは少し違う・・を繰り返し、そうこう繰り返し続けているうちに、やっと「食べること・飲み込むことに対するリハビリがある」ことを示す文献や書籍に遭遇しました。「これだ!」と思ってそのリハビリを患者さんと一緒にやってみました。しかし、約3か月そのリハビリを継続してやってみたがどうにもうまく改善しません。私を信頼し、一緒にやってきたAさんに「ダメだ」とはとても言えません。

そんな中、別の文献では病気は異なるけれど、耳鼻科的手術をしたら同様の症状が改善したという文献があったことを、これまでの勉強で見つけ、病気は違うがこれをやってみたらどうかと気付いて耳鼻科の先生に相談しに行きました。


次回:「治療法のない障害」に挑む日々

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